フリ転編集部 黒子
Webライター兼Webディレクター。新聞記者を経て、HR領域のWebメディアのディレクションに15年以上携わる。現在は副業としてさまざまなWebメディアのライティング、及びディレクションに関わる
フリーランスの活動で、もっとも悩むのは「値決め」ではないでしょうか。価格相場があることは知りつつも、自分の適正価格を出すのは難しいことです。値上げしたいと思っても、それによって受注が減ってしまう不安もあるでしょう。今回は、フリーランスとして駆け出しの方、またすでにフリーランスとして活躍中だけど値決めに課題を感じている方に向けて、値決めの方法や値上げの交渉方法も含めて解説します。
フリーランスの値決めのポイントは、安易な値下げや根拠のない値上げ交渉をしないことです。自分にとっての適正価格を決めて、必要以上に遠慮せずにクライアントとしっかり交渉していくことが、自分のためでもあり、クライアントのため、さらには市場全体のためにもなります。正しい価格設定と交渉をしましょう。
目次
特別な目的がない限り、値下げや安請け合いをしない
フリーランスの値決めについて最初にお伝えしたいのは、特別な目的がない限り、値下げや安請け合いはしないということです。安易な値下げは基準価格となり、値上げが難しくなることや、さらなる値下げ交渉をされる可能性もあるでしょう。
また受注価格が相場より極端に低い場合、「安い分、品質も悪い」という先入観をもたれてしまうこともあります。フリーランスにとっての値決めは、いわば自分自身のマーケティングです。
一方で、新しいクライアントを獲得するための実績づくりなど、目的がある場合の値下げは例外です。その場合も「この期間だけ」「この案件だけ」というように限定的にすることをおすすめします。
大きな視点で見ると、案件の値下げは自分だけでなく、業界全体の相場の引き下げにつながります。誰かが値下げをすると、それが基準になって、さらにそこから値引きしないと受注できないというような負のスパイラルが起きてしまいます。だからこそ、値下げや安請け合いはしないことが大切です。
駆け出しのフリーランスが適正価格を自分で決めるステップ
フリーランスとして活動を始めたばかりのころの値決めは、自分にとっての基準価格を決めることになるので特に重要です。受注が欲しいばかりに、漠然と低めに設定してしまうと、その金額を基準に次の案件を受けなければならなくなってしまいます。
適正価格は時給をベースに考える
まず、自分の時給のベースを考えます。たとえば会社員として働いていた時の給与から時給を換算し、フリーランスとしてどれぐらい稼働できて、どれぐらい稼ぎたいかというところから逆算して、ベースとなる時給を決めていきます。
フリーランスの求人紹介をするエージェントも「時給単価×必要時間」の価格で募集しているように、フリーランスの適正価格のベースは時給で一度考えると良いでしょう。
業務にかかる工数毎を必要な時間数まで落とし込む
次に、その業務にかかる工数を時間数まで落とし込みます。業務の難易度や範囲、作業量によって変わってくるところです。駆け出しのころは実績がなく、工数の見積もりが難しいかもしれませんが、これまで取り組んだことのある、似たような業務から対応可能な時間数を検討しましょう。
職種・業務や類似した案件の価格相場を調べる
続けて、職種や業務内容などが類似した案件の相場価格を調べます。フリーランスの求人紹介サイトなどで探しましょう。ただし、相場はあくまで平均なので参考値として、相場に縛られ過ぎないように注意しましょう。
自分の今の経験・実績やスキルといった付加価値を価格相場に上乗せする
市場の相場に自分の経験や実績、スキルなどの付加価値を上乗せします。
たとえばデザイン業務の場合、成果物の納品に加えてマーケティングの視点を持ってペルソナ設計ができるなど、プラスαの要素が提供できる場合は、その分を上乗せします。
駆け出しのころは実績が少ないこともあるでしょう。そのような場合は、たとえばクライアントの想定よりも短納期で対応できる、修正依頼に何度でも対応できるというような点も付加価値にできます。
必要な時間数×付加価値込みの時給単価から見積価格を計算する
最後に、これまでお伝えしてきた「業務に必要な時間数」と「付加価値を含めた時給単価」をかけ合わせて、案件に対する価格を決定します。
いきなり適正価格を出そうとすると、いくらぐらいが正しいのか判断できませんが、時給単価、時間数、相場価格、付加価値と細分化していくと、自分にとっての適正価格が決められるでしょう。
CHECK
駆け出しのフリーランスにとって、その後の基準となる最初の値決めは特に重要
適正価格を決める要素は、時給単価、時間数、相場価格、付加価値
経験や実績、スキルに基づく付加価値が、相場を上回る価格設定のポイント
活躍中のフリーランスが自身の適正価格を見直しするステップ
単価を上げたいけど見直しできないという方の中には、自分にとっての適正価格が分からない方が多いのではないでしょうか。適正価格は、論理的に戦略的に算出することができます。活躍中のフリーランスの方が適正価格を見直す具体的なステップをお伝えします。
自分が市場で取りたいポジションをベースに考える
まずは、市場においてどのポジションを取りたいかを考えます。身近な化粧品の例を交えて、ポジションの違いをお伝えします。
- とにかく安い×数も多い
ディスカウントストアや100円ショップなどで扱っている化粧品をイメージです。大量生産や、パッケージにあまり費用をかけないことなどで価格を下げ、誰でも気軽に購入できるようにしています。フリーランスでいうと、スピード重視で小回りがきき、コスパの良さを売りにしていくポジションですね。 - 価格は高い×質も高い
ドラッグストアや量販店で扱っている化粧品のうち、国内の有名消費財メーカーなどが作っている化粧品のイメージです。知名度のある企業の商品なので一定の信頼感もあり、質も保障されています。フリーランスの場合は、ほかの人に比べて高いスキルがあるので、高単価の案件が受けられる人材です。 - 高級×希少
いわゆるブランド品で、高級デパートやオリジナル店舗でのみ取り扱われている化粧品です。フリーランスに置き換えると、自分にしかできない市場を持っている人材です。特定の領域で圧倒的な知見があり、上流から下流までの幅広い経験があるなど、「この人でなければ」と思われるような人材です。フリーランスにとって最終的に目指したいポジションでしょう。
欲しい手取り額に必要経費を載せて売上目標を決める
適正価格を見直すステップの1つが、欲しい手取り額に必要経費を載せて売上目標を決めることです。家賃や住宅ローンや食費などの生活費にフリーランスとして活動するのに必要な、通信費や交通費などの経費・運転資金をプラスします。それが最低限の売上の目標金額となります。
市場ポジションから売上目標に必要な受注案件の種類と数を計算する
続いて、自分が取りたい市場でのポジションにおいて、売上目標を達成するために必要な案件の種類と数を計算します。当然ながら単価の高い市場であれば、必要な受注数は少なくなりますが、単価が低いほど数をこなさなければなりません。
売上の目標金額を達成するための案件内容と案件数のバランスを戦略的に考えましょう。
案件種類ごとに必要な時間数を見積もり、売上目標で割り、時間単価を出す
受注する案件と数が想定できたら、案件の業務内容ごとに必要な時間数を見積もり、売上の目標金額で割って時間単価を出します。
以下、例をお伝えします。
- 売上の目標金額:20万円
- 案件の必要時間数:20時間(※案件の種類が1つの場合)
- 時間単価:20万円÷20時間=1万円
こちらでは案件の種類が1つの場合でお伝えしましたが、業務の内容によって必要な時間数は変わるので、その場合は時間を合算して計算してください。
計算した時間単価の妥当性があるかクライアント目線で確認する
最後に、算出した時間単価がクライアント目線で妥当かどうか確認します。売上の目標金額と必要だと考える時間数から算出しているので、自分としては納得する金額になると思いますが、それがクライアントにとって妥当性があるかどうかが重要です。
クライアントが発注したいと思う金額でなければ“独りよがり”の価格設定になってしまうでしょう。冷静に、客観的に妥当性を確認してみてください。
CHECK
適正価格の見直しの第1ステップは、市場での自分のポジションを決めること
欲しい手取りから売上目標を決め、案件の種類とかかる時間数から時間単価を割り出す
算出した価格がクライアントから見て妥当性があるかが重要
単価相場に依存し過ぎた値決めはNG
値決めの際に、特に注意したいポイントをお伝えします。それは、単価相場に依存し過ぎた値決めはNGということ。単価の相場は、あくまでも平均値です。また、特定の人がネット上で相場を公開しているケースもありますが、それも「その人の場合」という金額です。
同じ業務内容であっても、それぞれの実績やスキルによって単価はまったく異なります。発注するクライアント側も、金額に見合う、またはそれ以上の成果を出してくれる人であれば、相場の平均より高くても依頼したいと考えるでしょう。
市場の相場に引っ張られ過ぎると自分の適正価格を見失ってしまうので、あくまでも参考値としてとらえてください。
単価アップの交渉手順と抑えるべき提案ポイント
自分にとっての適正価格が設定できたら、次はクライアントと交渉していきます。その際の手順をお伝えします。必要以上に遠慮することなく、また一方的な要求にならないように、根拠を持った金額の提示やタイミングを知って交渉を進めていってください。
最大の予算額を事前に確認しておく
単価アップの手順の1つ目は、最大の予算額をクライアントに確認することです。交渉をする際に、クライアントの想定をあまりにも大きく上回るようだと、単価アップは難しくなります。最大の予算額はクライアントにとって、それに見合うクオリティや成果であれば発注するという金額です。あらかじめ聞いておき、それに近い形で、かつ成果をしっかり出すことを伝えれば交渉しやすくなるでしょう。
提示する価格に対して客観的で正当な理由を持つ
次のポイントは、提示する価格に対して客観的で正当が理由を持つこと。単に、相場と比べて低いから、ほかの案件よりも安いから、などの理由で単価アップの交渉をしてもクライアントはなかなか納得しないでしょう。
たとえば、実務経験が長くなったのでそれだけスキルアップしている、受注当初に比べて業務量が増えているなど、クライアントも共通理解が持てるような理由が必要です。
適切な交渉タイミングを見極めてアプローチする
単価アップの交渉にはタイミングも重要です。闇雲に交渉をしてもタイミングが悪いために単価アップがかなわないこともあります。交渉がうまくいきそうなタイミングを見計らって進めましょう。
業務量や業務スコープが変化するタイミング
量やスコープが増えるということは、クライアントが信頼して業務を任せてくれている証拠でもあります。信頼関係もある中なので単価アップの交渉もしやすいでしょう。
既存クライアントのリピートで契約書を巻き直すタイミング
リピートしてくれるということは継続して業務を依頼したいと思ってくれているということ。前回と同じ業務内容だったとしても、たとえば業務のスピード感が上がっていたり、実績が増えていたり、また、ほかのクライアントでより高い単価で受注しているなどをもとに、単価アップを交渉してみましょう。
提案時の見積もりは品目を細かく、工数と費用を明確に記載する
単価アップの交渉の最後のポイントは、提案の際の見積もりは品目をできるだけ細かくして、品目ごとの工数と費用を明確に記載することです。大まかな見積もりだと、クライアントは何にどれぐらいかかるか分からず、本当は必要な工数があるのに、漠然と割高な印象になってしまうこともあります。業務の工程をできるだけ詳細に分類して、かかる工数と費用を明確にして、妥当性のある価格と明示しましょう。
CHECK
単価アップの交渉のポイントの1つは、提示金額に対する客観的で正当な理由を持つこと
業務範囲の拡大やリピートなど交渉のタイミングが重要
細かな見積もりによってクライアントに納得感を持ってもらうこと
フリーランスとして活動する際に1番悩むポイントである値決め。自分にとっての適正価格の設定の仕方と、それに基づいた単価アップの交渉術をお伝えしてきました。案件獲得のためには単価を下げたほうがいいのでは、と考える気持ちはとてもよく分かりますが、それは自分が苦しくなるだけでなく、フリーランスの市場全体にもよい影響を与えません。工数や時間単価をていねいに分解していけば適正価格は設定できます。ぜひ今回ご紹介した手順に沿って進めてみてくださいね。